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清少納言へのKOIBUMI〜わたしのエモーショナルなエンジンがフルドライブ〜

時間も空間も飛び越えて、
文章には、
瞼一つ動かせず、絶望の淵に横たわる人の手を、
力強く握りしめ、驚異的な速さをもって、
希望のほうへ引っぱり揚げる未来を孕んでいる。

それは、書き残すから起こり得ること。
そのときを懸命に生きる、どこかのだれか。
ほとばしる胸の内を文字に成さんと、その手を紙の上に走らせるから、有り得る奇跡。

ああ、人々の営みの連鎖は、なんて輝かしいのだろう。
ああ、私もその一端を担おう。枯れ木も山の賑わいさ。

だって、生きてるから。
その光をこの身に受けたから。

私は『Fate/Grand Order』(通称:FGO)というスマホゲームをリリース当時からプレイし続けている。かれこれ5年という長い付き合い。そのゲームには、歴史の偉人、神話や伝説上の存在、小説の人物などなど、古今東西ありとあらゆるキャラクターが登場する。キャラ付けや設定がしっかり作り込まれているので、特定のキャラクターに思い入れが深くなることも多い。

2020年2月12日、新たに清少納言というキャラクターが追加された。見た目は現代の原宿系パリピ女子高生(あるいはきゃりーぱみゅぱみゅ)という奇天烈なアレンジが施されていたが、それがまた本当に可愛いというか、いやー現代に清少納言が転生したらきっとこんな感じだよねーっという妙な納得感があるというか、兎にも角にも可愛いキャラ。

実のところ、そのころ私は心身ともに地獄だった。端的に言えば、鬱。仕事に行けなくなって、会社を辞めて、自己嫌悪に苛まれながらベッドの上で肉の塊になっていた。だから2月12日は、大きな転換の日だったのだ。パリピ清少納言の陽気パワーのおかげで、久々に気持ちが上向いた。同時に、心が疼いた。なんだろう。学生時代に古文や和歌が好きだったという理由だけでは説明できないほどの「あくがる※」という心地をもよおした。
※「心が強くひきつけられて、じっとしていられない気持ちになる」という意味の古語(weblio辞書より

そわそわ感を発散すべく、清少納言でネットサーフィン。そして、ひとつのサイトにたどり着く。開いた瞬間、固まった。

『枕草子』って、
人生の窮地に立たされてなお、
この世界を祝福する話なんです。

人生の窮地に立たされてなお、この世界を祝福するものがたり。 - ほぼ日刊イトイ新聞 より

スクロールして、のめり込むように次の頁へと読み進めて……ふたたび、フリーズ。

手痛い敗北を喫した時に、
何を話すのか、どう振る舞うのか、何を遺すのか。
その姿勢を、歴史の勝者ならざる『枕草子』は
教えてくれる気がするのです。

人生の窮地に立たされてなお、この世界を祝福するものがたり。 - ほぼ日刊イトイ新聞 より

……。
……え? キャリアも健康も何もかもすっからかんという人生の窮地にいて? 己の未熟さを克服できなかったという手痛い敗北を喫したばかりの? このタイミングで? 清少納言というキャラクターに出会い? この言葉に出くわすって? ちょっと。なに。三文小説もびっくりのベッタベタな展開なんですけど。わら。
でも、そうか、そういうことか。

ここから私がどう立ち上がればいいか。
貴女は、己が背中を見せにきてくれたんだ。

さらに。

このゲームに登場するキャラクターは必殺技を持っている。織田信長なら鉄砲乱れ打ちとか、諸葛孔明なら石兵八陣とか、ファントム・ジ・オペラ(オペラ座の怪人)ならクリスティーヌへの愛の唄を歌い上げるとか、その人にちなんだ何か。
清少納言の場合は、『枕草子・春曙抄エモーショナルエンジン・フルドライブ』というものだった。

エモーショナルエンジン・フルドライブ。着想も響きも、やむごとなきことこの上ない(※意味の重複)のは、さらなり!
この言葉は、私に『意欲』ーーそれは、鬱のときに最も必要で、最も得ることがむずかしいものーーを、もたらしたのだ。私も、私のエモーショナルなエンジンをフルドライブさせたい! と。
そう、つまりは「書きたい!」と。

さらに、さらに。

先の動画を見るとわかるように、FGOのキャラクターたちは必殺技を撃つときに口上を述べる。清少納言の場合はこうだ。

春は曙、夏は夜。なべてこの世は、いとをかし。塗り潰せ、枕草子!
枕草子・春曙抄エモーショナルエンジン・フルドライブ』!!

塗りつぶせ、ってなんだ? と、最初は思った。何を塗りつぶすの? 敵を? 墨汁で? とか。その疑問は、清少納言と往く旅のクライマックスで氷解した。相対する人物に向けて、彼女は高らかにこう言い放つ。

悲しくて、悲しくて……凍りついた心を溶かしたのは
華やかだった日々の記憶ーー。
若者たちよ、常にハッピーであれ!
昨日の笑顔は、悲しみさえ塗り替えてーー
まだ見ぬ明日へ繋がってゆくのだから!
世界を塗りつぶせ、『枕草子』ーー!
エモーショナルエンジン・フルドライブ!!

いみじかりしバレンタイン ~紫式部と5人のパリピギャル軍団~ 「八段 遠くて近きもの」- 『Fate/Grand Order』より

また、清少納言との絆が深まることで開示される彼女のプロフィールには、このような説明があった。

エモーショナルエンジン・フルドライブ。
武芸や陰陽の術ではなく、
ただ書き綴ることで辿り着いたひとつの境地。
感情の泉の湧き出すにまかせ、自著『枕草子』の内に構築した心象風景を現実世界へと具現化させたもの。
(中略)
清少納言によって塗り替えられた世界は、
『いつか、どこかで見た懐かしい風景』となって、
結界内に取り込まれた相手の心に侵食する。
哀愁、ノスタルジィ、いとあはれ───
湧き上がってくる強い感情に心をかき乱され、
ほんの一瞬でも戦いを忘れてしまったのなら、
この場を支配した彼女から放たれる、
強烈(で理不尽)な攻撃を避けられはしないだろう。

清少納言 プロフィール5- 『Fate/Grand Order』より

ああ、そうか。
自らの手で、塗りつぶす。いや、塗り替える。
苦しい記憶も。無きものにしたいとさえ思う自分自身も。
書くことで、塗り替えられる。
書くことには、そういった力がある。

ーーそれを、伝えにきてくれたんだ、貴女は。

(なんだか今これを書きながら、これってとってもナラティヴ・セラピーの「自分の物語を語る」とか「オルタナティヴ・ストーリー」っぽくないか?? と、ちょっとびっくりしてみたり。)

いやあ、なんというか。
この度これほどまでにナイスなタイミングで物語に深々と感情移入して、しかも実際にこの出来事がきっかけで、身体的にも精神的にも一段階体調が良くなったんですよ。嘘みたいなホントの話。てゆーか私の心身の単純っぷり?

でもこんなことが可能になったのも、さかのぼれば、1000年前に清少納言と呼ばれた女性が、己の逆境に屈せず、この世を言祝ぐ『枕草子』を書き遺してくれたことがそもそもあって。江戸時代に北村季吟が『枕草子春曙抄』という注釈書を残してくれて。今日に至るまで多くの学者さん達が研究を深めてくれて。そういった資料をもとに、今を生きるシナリオライターさんが『FGO』で、此度の物語を産み落としてくれたから。

あー。私は、この”人の営み”に、その連鎖に、救われたんだなーーーー。

ね。であれば。
私もその一端を担おう。
書こう。
エモーショナルエンジンをフルドライブさせて。
この世を言祝ぐわたしの日記を。

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